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その男、性悪につき(SQ4)

自宅の金ソド×リボンスナのレイプ話です
オチはない

一応R-18でお願いします

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 ぼうっと白んでいた視界が、徐々に輪郭を取り戻す。自分は今何をしているんだろう、とヘルセは今の状況を理解しようとした。

 目の前には黒い長髪。千々に散らばる細い束に窓からの夕陽が反射して、外郭は鈍く光っている。自分は、この人物の背中を覆うように抱いているらしい。よく見知った、華奢な男だ。こちらから顔は見えないが、胸に当たる肩はか細く震え、何かを堪えるような荒い息づかいが聞こえる。不安定なベッドの上に、二人はよつん這いの形で折り重なっていた。男のじっとりと汗ばんだ首筋に唇を這わせると首が反れると同時に、ふうっと一際大きな息が漏れた。そして腹部を押さえていた左手をずらし太股を優しく撫でる。ヒッと掠れるような悲鳴が聞こえ、男の全身が強張る。

 うなじを大きく食もうと口を開けた瞬間、右頬にずきりと鈍い痛みが走った。驚いて顔を上げ手をやると、にちゃりと粘性の液が指へ付着した。意識するや否や、鉄の臭いが鼻を掠める。

〈あ、そうだ。これのせいだ〉







 事の発端は今日の探索だった。

 先日から連日潜り続けている第四迷宮、木偶ノ文庫で、初めて対峙したモンスターに不覚を取ってしまったのだ。花を模した小型の魔物に攻撃はひらりひらりとかわされ、まるで刃物のような花びらに翻弄された。体のあちこちに鋭い切り傷が増え、苛立ちが募っていた。近くで印術師と夜賊が青い兎を追い詰めているのを横目で視界の端に入れながら、花型の魔物を後衛に近づけないように大剣を振り回した。

 ダメージはさほどでも無いが、忙しなく動かれ、小さな花弁がめまぐるしくあたりを舞ってはかすかな痛みを与えられる状況は、集中力を要する後衛にとってはかなりの厄介者だ。そういう訳でリーダーの指示により、四人で残りの兎を仕留めるまでは自分一人でこの花型の魔物を相手するということになったのだ。あちらの片付けが終われば、すばしっこいだけの敵なんてリーダーの正確な弓で簡単に射止めてくれるだろう。

 そんなことを考えながらのらりくらりと相手をしていたわけだが、状況が一変した。突然、視界の端から赤白い光が広がった。地面が震動するのが伝わり、四人の短い悲鳴が入り交じる。熱気のある風が体全体を包み、すぐさま抜け去った。ヘルセは咄嗟に盾で身を庇った。耳のすぐそばでガツンと大きな何かがぶつかり、盾と腕に電気のような衝撃が走る。同時に、迷宮を構成している石の細かな破片が庇いきれていない腕や足を掠めていった。

 勢いが収まり風の向かってきた方へ目をやると、先ほどまで兎がいたはずの地面が抉れ、爆発が起きたことを物語る焦げ跡ができていた。一体どういういきさつかは分からないが、兎の一匹が千々に爆散したらしい。先程の盾への衝撃や手足の痣と傷がその結果だった。足下に転がる角ばった手のひら大の石を見る。これが頭に直撃していれば、致命傷になっていただろう。ぞろりと体内の血が沸き立ち、対称に頭は冷たく冴えていく。ヘルセは目を瞠った。

 爆発を間近で受け、血塗れで伸びているパーシファエと、それに寄り添い治療に務めているスィオネ。その隣でシノーペが弓も構えずに、戦況を立て直そうと考えているようだった。前線にはさっきの二の舞になるのではと危惧し、つかず離れずで攻めあぐねているアドラステアがおり、彼もかなりの傷を負っていた。だが、そんな四人の輪郭はすぐさまぼやけ、奥の兎を捉える。まだ二匹残っていた。

 自分はここにいていいのだろうか。どんな奇術かは知らないが、持ち前の丈夫さと盾であの爆風を凌いで倒せば問題はないはずだ。いや、そんなことは関係ない。今、自分たちは死地に追い込まれようとしている。同じ程度の爆発がまた起これば、今度こそ誰か死ぬかもしれない。自分なら勝てると思う気持ちと、純粋に戦いたいと思う気持ちが募り、丹田の辺りに力がこもる。

 戦闘の昂りが無意識に性的興奮に繋がるというのは珍しくも無いことで、実際に死線を越えた後、己の急所が放出を行った痕跡を確認したことも数度かあった。

 今そんな状況なのだろう、という思いが頭の片隅に浮かんでは消える。自分から発せられる荒々しい息を鼓膜で捉えながら、脳の奥が生死を分かつ戦闘を渇望する疼きを肥大化させていった。理性どころか思考と自我さえもがぼんやりと消えていくさなか、不思議な甘い香りが鼻孔へ届いた。

 それが "何か" 考えようと思考を取り戻しかけた瞬間、頭が真っ白になり、虚無の狭間へと己の全てが吸い込まれていく感覚だけがわずかに残った。




 気がつくと、藤ののさばる古びた本棚群は視界から消え失せていた。一面の青い空から放たれる眩しい陽射しに目と脳が混乱する。ちかちかと目を瞬たかせていると急に迷宮での記憶がわっと押し寄せ、思わず身構えたが、すぐに大丈夫だよ、と甲高くも優しい声が耳に響いた。

 「もう、タルシスに戻ってきたから。体、痛くない?」

 微睡みのような気だるさを感じながら、その声を聞いて安堵したヘルセはうん、と小さく頷き身体の力を抜いた。露出している指先やふくらはぎには柔らかな草の感触が、背中には日光を吸収しあたたかくなった凹凸の少ない石の感触が薄手の布越しにあった。スィオネは傍らに跪き、タルシスの外壁によりかかっている自分の負傷した箇所を、消毒液と包帯で次々に処置しているようだった。未だはっきりと意識を取り戻していないヘルセに、スィオネは穏やかに語りかけた。

 「パースくんは傷が酷かったからアドラさんがすぐ診療所に運んで行ってくれてね、リーダーさんも腕とか怪我してたから、一応そっちで診てもらってるの。それで、わたしがヘルセくんをここで手当してるってわけ」

 浅い傷ばかりだからすぐ治るよ、と付け加えスィオネはにっこりと微笑んだ。ヘルセはぶっきらぼうにそっかー、とだけ言い、失われた記憶の在処を探そうと傍らの少女に尋ねた。

 「あの後、何があったんだ?」

 あの後?と少女は眉をひそめしばし逡巡するも、すぐに答えを見つけたらしくぱっと顔をほころばせた。苦笑しながら、混乱していたんだよ、と少女は語った。

 「あそこにお花の魔物がいたでしょ?あいつがそういう技を使ったみたいで......。ヘルセくんだけ、ばっちりかかっちゃったの。それで兎の方へ一人で突っ走っていって、次々に倒して......」

 あっという間すぎてびっくりしちゃった、と感心したように言い、続ける。

 「その後はリーダーさんがあのお花を射って、糸を使って帰ってきたの。終わり良ければ...って言うけど、今回ばっかりはリーダーさんの采配ミスよね。......だって、はじめからヘルセくんもあっちにいれば、あんな事にはならなかったのに」

 パーシファエに恋慕している少女は、心底苦しそうに顔を歪めた。

 「......はい、終わったよ」

 しょんぼりと余った包帯を纏めながら言う彼女に、仕方ないよとヘルセは励ましの声をかけた。

 「きっとそんな大したことないって。あいつ、見た目よりも意外と丈夫だしさ。オレはもう平気だから、心配なら早く行ってやれば?」

 スィオネは潤んだ目を手でこすりながら、小さくありがとうと呟いた。手早く荷物をまとめ、忙しなくタルシスの街中へと駆けていく。ヘルセは縮こまった背筋をうーんと伸ばし、しばし放心する。柔らかな春の風に撫でられながらも、心此処にあらずだった。燻った赤黒い欲が、澱のように心を淀ませる。混乱した自分は、確かに直前まで高まっていた欲望を果たしたらしい。だがあれは、自分であって自分ではない。催眠により心のないままに、事情を与り知らぬ何者かに操られた結果なだけだ。舞台のクライマックスを目前に照明が落とされた時のような、靄々としたわだかまりが心中に残っていた。

 見た目には下半身の一物は平生を装っているが、このままでは頭の方がどうにかしてしまいそうだ。意識し始めると、次第に全身が熱を持ち、思考するのが面倒になってくる。

 ふぅーと大きく息を吐いて一時的に頭の霞を追い払うと、ヘルセは気だるい身体を制御し立ち上がった。するとまたうっすらと頭に霞がかかる。だが歩みだした足は止まらないし、正常な思考は奪われようと毎日の往来は身体が覚えている。己の足は正確にその跡を辿った。




 ややもすると、我らが拠点であり寝食を共に過ごすギルドハウスの入り口に立っていた。ノブに手を掛けると先駆けて帰った人物がいるのであろう、鍵のかかっていない扉はすぐに開いた。応接間兼リビングとして使用されている広々とした空間に、その人物はいた。一人はアドラステアで、彼もあちこちに傷を負っているであろうに、左手の窓際に置かれたソファに深々と腰かけて本を読んでいた。もう一人はギルドのリーダーであるシノーペで、リビングの右奥、個々の寝室や倉庫に繋がる通路の手前ーーその辺りの床が彼のパーソナルスペースであるーーに胡座をかいて座り込んでいた。傍には弓と放射線状に並んだ矢が置かれ、矢は新品のごとく磨かれたものと乾いた血に塗れたものとが入り交じっている。探索から帰るといつもそうして使えず捨てる矢を選んだり、使えるが汚れている矢を几帳面に拭き上げるのが彼の日課だったし、アドラステアにしても疲れを少しも感じさせずに、帰宅後すぐ優雅に読書をする姿はお馴染みであった。

 「あ、おかえり~」

 ドアを開けるなり二人の視線が集まり、のんびりとしたアドラステアの声が飛んだ。が、すぐに表情が硬直し、いつもの柔和な笑顔から口角だけを残した苦々しい笑みに変わる。すごいね、と遠回しな表現を好む彼らしい感想が漏れた。

 「......浅い傷ばっかりだから、すぐ塞がるって」

 「そっか、良かったね~。パースくんも、見た目ほど酷くないって言われたよ。俺もシノーペくんも、薬と包帯だけで大丈夫だって。さっき帰されたんだ」

 とは言えど二人ともすごいな、といつもの事ながら不思議に思う。武器の手入れや読書に、そこまで重要性があるのだろうか。だが今日だけは、自分も勝手が違う。いつもなら風呂に入るかあるいはそのまま、ベッドやソファに倒れこみ次の飯時まで時が過ぎるだけであるのに、燻った黒い炎を吐き出すまでは許さない、と云わんばかりに眠気は片鱗も無い。

 どうしようか、とぼやけた頭で考えていると、いつもなら絶対に想像もしないような邪悪が忍び寄ってきた。ずんずんと広間を横切り、なぁと声を掛ける。帰ってきた自分を一瞥したきり、一言も発さずまた元の作業に戻っていたかの人は顔を上げた。作業を邪魔されたのが気に食わないのかそれとも普段からこんな顔だったか、不審な様子で眉間に深い皺が刻まれている。こちらを見上げる形になっているため鋭い三白眼の余白が更に協調されていた。ヘルセは口の端をにんまりと歪めた。

 「一緒に、来て」

 はぁ?と素頓狂な声を上げる男の二の句を待たず、右腕を掴み引っ張りあげる。上背に見合わない軽さで、簡単に身長の分引き上げることが出来た。シノーペは驚いたように目を瞠り、そんな彼にわざと目もくれず廊下へと歩を進めた。

 「お、おい! なんだよお前!」

 目当ての場所はすぐそこで、自室のドアを勢いよく開け放ち、力任せに腕を引っ張った。部屋の中心あたりに放り出された彼はややよろめき、掴まれていた二の腕が痛んだのか左腕をそこに宛てがっていた。バッと振り向いた顔には、不審と不安の表情が見て取れる。

 ヘルセがこれまでと同じように素早く、ドアを閉め後ろ手に鍵をかけると、シノーペは顔面蒼白でまさか、と呟いた。大股で一歩進むたびに、男は少しずつ後ずさる。じりじりと距離を詰めもう息もかかるか、というところでやにわに彼が倒れこんだ。ベッドの端に足を取られたらしく、願ってもない形で仰向けになった男に、ヘルセは勢いよく覆い被さった。慌てた彼は引き攣れた叫びをあげ、両手をこちらの額に当てて腕を突っ張った。

 「お前っ......! お前、ふざけんなよっ」

 やめろ、馬鹿、と目を瞠りいつもの定型文を次々に吐き出す。だが普段の呆れや怒りといった感情よりも、今は恐怖や怯えが強く見てとれた。焦る男にヘルセは意地悪に笑みを深め、けらけらと笑った。

 「あはは、何されると思ってんの?」

 男の青白かった顔が途端に朱に染まり、口は固く引き結ばれた。腕の力が緩まり、気まずそうに視線を逸らされる。耳許に顔を寄せ、そっと囁いた。

 「多分お前の思ってる通りだけどさ」

 言うが早いかシノーペの体は石のように硬直し、危険を察知しこちらの胸に手を押し当ててきた。それを軽くいなし、片手で細い手首を束ねる。赤く色づいた耳を軽く啄みながら、空いた右手で男の上衣の留め具を外す。やめろ、と言う引き攣れた声を無視し脇腹から胸にかけての骨ばった丘を執拗に撫でさすっていると、声は段々と上ずった小さな悲鳴に変わった。

 中に着ている薄いインナーを胸の上までたくし上げ、この男は今どんな顔をしているのかと見やると、頬を真っ赤に上気させ、下唇を噛み懸命に堪えている。普段の怒気を孕んだ赤面とはまた違った趣で、初めて目にする初心な恥じらいに情欲がかき立てられた。

 露わになったすべらかな胸をしだくように捏ね、もう片方の頂きを口に含む。中心を舌で転がすたびに男の背中がびくりと跳ね上がる。んん、と苦悶を漏らしながら唯一自由のきく膝から下をばたつかせたり、必死に身体を捩ったりなどして支配から逃れようとしていた。腕力、体力共に両者の差は歴然としていて、彼だってそのことは重々承知しているはずなのに抵抗を諦めない姿がいじらしく、滑稽で、ヘルセの潜められていた嗜虐心に火が点いた。

 男の太股に押し当てている中心が疼き、驚くべき早さでかたちを成していくのが感じられた。執拗に平坦な胸をねぶりながら、ぼやけた思考でなんとなく呼吸の合間に「可愛い」と呟くと、目の前の白い肌が一斉に粟立った。それがおかしくて、可愛い、可愛いと囁くと、ついに堪えきれなくなったのか震えた声で、うるさいと返された。それで堰が切れたらしく、大粒の涙が次々に頬を伝い、何度もしゃくりあげながら嫌嫌と子供のように首を振る。やめろ、と力の入りきらない言葉を何度も吐く。

 こんなに感じて、顔を真っ赤に染めて、頼りなげに腰を浮かせているのに、本人は快楽とは捉えていないらしい。けれど、普段から色恋沙汰のにおいを少しも感じさせないこの男が、誰にも見せようとしないであろう表情や喘ぎを剥き出しにしている姿を自分だけが見ているのだと思うと、えも言われぬ心地がした。

 そろそろかな、と抑えつけていた男の腰を引き抜き、ベッドの中央へ追いつめる。身体を縮こまらせようとするのを器用に制し、くるりと反転させる。力なく膝を折り曲げ、土下座をするような体勢でへたり込む彼の胸を支えながら、下衣を膝までずり下ろす。強張った体が直後、小刻みに震えだした。

 「......やだっ、やめろ…! い......やめ、やめて......」

 驚きと恐怖の入り交じった叫びから、切ない哀願に変わる。まだ何もしてないのに、と可愛そうに思い優しく抱きしめた。怯える背中に己の胸をぴったりと密着させ、ゆっくりと男の鎖骨や胸を撫で回した。汗に濡れた黒髪を右肩へ流し、色気が匂い立つ首筋に顔を埋める。

 うなじを大きく食もうと口を開けた瞬間、右頬にずきりと鈍い痛みが走った。薬を塗られただけに留まっていた傷口が頬筋の収縮に伴い開いたらしい。不意の出来事に面喰らったが、さしたる問題では無い。むしろ靄のかかっていた頭が晴れ、性欲で我を見失っていた心に余裕が出来た。熱っぽい息を胸から押し出し、よりじっくり楽しんでやろうとヘルセは意地悪く笑った。







 にちゃりと粘性の強い何かが首筋に付着する。それが何か想像することさえ既に儘ならないが、すぐにちゅうっとそこを吸われ、否応なしに顎がのけ反る。ひくついた喉から、己の意思と乖離して零れる甘ったるい音が脳内に反響してくらくらと揺れた。胸や足をまさぐる手が離れたのを機に、なんとか正気を保とうと呼吸を整える。

 その間に自分を抱きすくめている男が片腕を伸ばし、枕元の棚から小瓶を取り出すのが見えた。目の前で器用に蓋を開け、てらてらと光る液体を指に纏わりつかせる。そして何を思ったかその手をこちらの唇へ這わせ、くるくるとなぶりはじめた。歯を噛み締め気持ち悪い愛撫を拒んでいると、再び油断していた首筋を不意に責められアッと声が漏れる。その隙に、三本の角ばった指が口腔へ浸入し、男の髪の匂いを何倍も濃くした香りが鼻孔を突いた。人指し指と薬指で口を閉じられないように固定し、長い中指で口内のいたる箇所にさらりとした植物性の油が塗りたくられた。他人に触れられることなどなかった場所を無遠慮に犯され、全身に悪寒が走った。喉はひどく渇いているのに口腔をまさぐられる反射で唾液は止めどなく溢れ、唇や顎を伝い滴る。吐き気を催し何度かえずいてみせたが、勢いは止まらなかった。ぐちぐちと湿っぽい音が直接骨を伝い、頭を掻き乱す。

 「ぐうっ……」

 サンダルウッドの甘い爽やかなはずの匂いも、ひどく強く香って脳が混乱する。抵抗するとなだめるように柔らかな手つきで口内を探るだけなのに、何もしないでいるといきなり喉の奥に指を押しこんでくる。そのたびに胃の中がせり上がり、苦渋にもがくしかなくなる。それを男は楽しんでいるようで、首の後ろに息をかけながらクスクスと笑っていた。

 ぼんやりとした頭で、ふとこの手を噛み千切ればいいのだ、と気づいた。口を無理矢理こじ開けられていたのも最初の内だけで、今は好き勝手にまさぐっているこの四本の指をだ。キリ、と骨の太い角ばった指に歯を軽く立てた時、それは勢いよく引き抜かれた。

 「おっと」

 しようとしていたことは見抜かれたらしく、目の前で行くあてもなく掲げられた男の指は唾液と油でぬらぬらと光り異質めいていた。

 まぁいい、そんなことはどうでもいい。本来髪につけるべくして作られた精油はやはり、指を抜かれても気持ち悪く口内に残っていた。反射的に流れた涙と相まって嗚咽のようになりながらもようやく閉じる事を許された口を使い、溜まった油を舌でこそげながらぼとぼととシーツへ垂らした。灰色のシミが歪な円形を保ちながら広がっていく。未だ胴体は男の左腕に捕えられ動かすことはできないが、興が冷めて早く解放してくれればいいと願った。










 「離せ……」

 肩で息をしながら、シノーペはようやくに言った。うなじや露わになった脚に大粒の汗が止まることなく流れている。ずっと緊張していたのだろう。自分の左腕に上体をあずけ、ぐったりと全身を弛緩させて前のめりになっている男の表情が肩越しに見える。顔全体を真っ赤に上気させ、口から垂れる液体を拭うこともしていない。普段は必要以上に神経質を醸している目も潤み、ぼんやりと焦点が合っていない。

 「離せよ…………」

 今度は緩慢な動作ながら、己の左腕の拘束を外そうと試みている。それはいけないと腕に少し力を込めると、連動するように男の身体が強張った。

 「だ、め」

 耳許に顔を近づけ優しく、はっきりと呟く。行き場をなくした右手を下ろし、男の胸元に触れた。油と唾液に塗れた指ではつねり上げるようなことはできないが、先ほどとは明らかに感触が違う。最初に考えていた目的をもう少し先延ばしにして、この愛撫をより楽しみたい気持ちが高まった。指を閉じて、ゆっくりと上下に胸の形に沿って手を滑らす。乳頭の上を指が通過する度に短い嬌声が上がった。

 男は背中を限界まで小さく丸めシーツに頭を押しつけて、快楽に流されまいと堪えている。それを覆うように自分が被さっているものだから、体力的にも中々に辛いはずだ。喘ぎの合間に荒い呼吸がせわしなく紡がれて、熱のこもった息が手にかかり、シーツと折り畳んだ身体とのわずかな空間を湿らせていく。心なしか滑りがよくなった右手の動きを緩めて中指の先で乳首を押し込むように突いてやると、一段と大きく体が震えた。

 「はあ、ぁっ……やだ、やめろ…やめろよ……」

 水音の混じった言葉が手にかかる。言葉とは裏腹の甘くかぼそい声で言われるとたまらなかった。何度も軽くはじいたり、爪の先で掠める様に触れたり、あるいはぬるついた指二本で挟んだりぐりぐりと押し込むと、どんどん喘ぎが大きくなる。ぐずぐずと泣きながらも、もはや身体で抵抗する力もないのにただ言葉だけは諦めずにいる姿が己の嗜虐心をぐらぐらと煮え滾らせた。

 「何が? こうやって触ってるだけで、こんなに感じてるのに、何が嫌なんだよ」

 言いながらも手は止めない。短い喘ぎ声と苦しそうな息遣いが間断無く上がるだけで、まともな答えは返ってこなかった。何度も繰り返し、反応が単調になってきた頃、ようやくヘルセは手を止めた。自分自身興奮で荒らげていた息を軽く整え、隙間なくくっつけていた背中から離れた。互いの汗で服は水分を含みきれないほどびっしょりと濡れ、男の素肌もしとどに濡れていた。そこに溜まっていた熱気が一気に蒸発したように肌寒さを感じるほどだったが、体内に燻った情欲は収まっていない。背筋を伸ばし、左腕で掴んでいる腰を引き寄せ高く持ち上げた。何をされるのか予感したのであろう、男は腕を伸ばしてじたじたと暴れた。これくらいのことは何事でもない。ぬるついた指を後ろの窄まりに宛てがった。びくっと彼の身体がこれまで以上に緊張した。

 「あ、あ…ふざけんなっ……!」

 明らかに怒気を孕んでいるが、涙に震える声で言われては脅威も何もなかった。早く挿れたい、という気持ちが早まりやや乱暴な動きで指を挿れほぐしていく。

 中指を背側の壁に沿って挿し込み、根本までを一気に含ませる。全てを抜ききらないよう加減して往復を繰り返した。速さや角度を変えたり、関節を曲げて壁を押し上げるように滑らせる度に、トーンの違う震え声が上がった。

 「や、あ、あっ…! あっ、ぅぐ……」

 男はまともな言葉もままならずに、全身から汗を噴き出させて喘いでいた。ベッドに額を押しつけて自分でもわけが分からないかのように、なりふり構わず首を横に振っている。ぐりぐりと穴を拡げたところに人差し指を増やし、好きなだけ弄った。腹側の壁に沿って押しつけるように進むと、一か所だけ、ひときわ高く鳴く場所があり、面白くなってそこを重点的に責めた。ほとんど泣き声のような短い叫びがひっきりなしに聞こえ、指の動きに合わせて痙攣するように、膝から下がビクビクと跳ねていた。あまりの乱れ様に些か冷静さを取り戻し、こうして離れて見下ろすと、胸の上までたくしあげた黒い上衣から膝まで纏うもののなくなった背中はひどく真白でか細く思えた。頼りなく、わずかにくびれた腰をぼうっと見ていると、こいつは本当に男だったかという気さえしてくる。それにしてはハスキーな声との齟齬に脳が困惑し、なぜか余計に欲情した。もはや反射的に喉の奥から絞り出されるだけの単調な喘ぎ声を堪能しきると、素早く指を引き抜いた。一つ尾を引いた甘い声を最後に喘ぎは止まったが、腰や足はまだ余韻に震えていた。

 それでも念のため腰は掴んだまま、器用に右手で自身の下衣を脱ぐ。興奮のさなか気が付かないうちに何度か果てていたらしく、下着はじっとりと湿っていた。が、陰茎はやわらかなカーブを描いてやや上向きに誇っている。棚の上に蓋を開けたまま放置していた香油の瓶から再び滴を手に取り、そそり立つそれに塗りつけた。ふっふっと息を吐きながらしごいていると、見る間に大きさを増していく。ぐちゅぐちゅと湿った音に気付いたのか、ベッドに突っ伏していた男はわずかに顔を上げた。上からは髪の隙間からわずかな横顔が覗くだけだった。少しかがみ、汗ではりついた髪をかきあげてやった。顔じゅう、耳から首元までもが真っ赤に燃えている。普段よりも更に弓なりに細められた目からは普段の威圧感はすっかり消え、涙に濡れた小さな瞳孔が焦点を合わせられていない。こちらを認めると、細い眉が余計にひしゃげ、涙の膜が広がり目の端から次々と零れた。何をするかはきっともう想像がついている。だからまたこんなに脅えた瞳で訴えているのだ。

 「挿れる」

 ぽつりと宣言して、高ぶった己の一物を穴に宛てがった。男の全身が強張り、力なく首を左右に振る。構わずに少しずつ挿入していくと、苦悶の声が徐々に大きく響いていった。穴は丹念にほぐしたはずだが、それでも陰茎の太さには適わず、苦痛が生じているようだった。

 「ッ、ぅあ、あッ!が、あっ!!」

 「い、痛っ、ーーーーーーッッ!!」

 潤滑油の効果は素晴らしく、こちらへの負担はほとんどかからずに根元まで挿入できた。この弱弱しい白い見た目からは想像もできないほど中は熱く、突き入れたものをこれでもかというほど締めつけた。奥まで入ってしばらくじっとしていると徐々に緩まっていくが、少しでも動くと、また過敏に反応して腸の壁が収縮した。本人の意とは反して、こちらを引き入れるように反応するナカは居心地がよかった。加えて引き攣った必死な喘ぎもまた興奮を煽いだ。ゆっくりと抽挿を始めても、ほとんど息をするだけでいっぱいいっぱいなようだが、時折喉の奥から絞られる苦しげな声が繋がった体内を伝って脳を揺さぶった。

 両手で細く角ばった腰を掴み、ピストンを速めていくと、ぼんやりと自我が薄れるような、目の前が白んでいくような不思議な感覚に覆われていった。ガツガツと奥を突くたびに上がる叫びや肉のぶつかる音、ナカをかき回す淫靡な水音も、だんだんと遠くなっていく。身体と意識が乖離していき、目の前全部が真っ白に染まった。思考にも靄がかかり、本能的な快楽だけが全身を内側から刺激した。瞬間、スパークし、視界も意識も現実に引き戻される。無意識にゆるやかな抽挿を数度繰り返し、痺れるような快感の余韻を残しながら、萎えた陰茎を完全に引き抜いた。

 尻もちをつくようにベッドに倒れ込むと、支えを失ったシノーペの身体もぐらりと横に倒れた。その体勢から動くこともなく、ひたすらに肩を激しく上下させている。もはや頭から消え失せかけていた当初の目的ーー血生臭い倦怠感は見事に晴れ、立て続けに戦闘と交合を重ねて疲れ果てた身体とは反対に、頭の中はすっきりと目覚めていた。

 「……大丈夫?」

 心配はしていないが、何とはなしにそれらしい言葉を投げてみる。返事はなく、気絶でもしたかと顔を寄せ、へばりついた髪を再びかきあげた。うっすらと開いた目がこちらを捉えた。

 「………死ね」

 感情が見えないほど細い声だ。しかし言葉通りなら、いつもと同じように怒っているつもりなのだろう。こいつらしい返答だ、と頷いた。

 「うーん、やだ」

 言うなり、眉間がキュッと狭まった。少しずつ余裕を取り戻しているようだ。ベッドを下り、男の頭近くに跪く。彼も目だけはこちらから離さなかった。上目遣いに、怒っているような泣いているような不思議な表情を浮かべている。黙って見ていると、じりじりと目が弓なりに細まってゆく。それに伴い、乾きかけていた涙の残りが僅かに零れた。

 「…殺す、お前ぜってー殺す」

 そんな真っ赤なー変な顔で言われても、と内心思いつつ軽く目を見開いてみせる。本気で思ってないくせに。いや、本気だろうが、実際はできっこない。そういう奴だって、分かっている。怖ぇなぁ、と小さく呟き、目を細めた。

 「ま、いいけど?でもそんなことなったら、オレも本気で抵抗するから。そしたら死ぬのはたぶん、お前の方じゃね?」

 こっちは本気の本気だ。笑ってはいるけど冗談のつもりはないし、それは向こうだって知っているだろう。怪訝な表情はしばらく変わらなかったが、ふいに負けを認めたように目を伏せた。徒に湿った髪をわしわしと掻き乱しても反応はなかった。ぼんやりと眺めていたが、興奮が収まり汗が冷えたことによってそれどころではなくなった。身震いしてゆっくりと立ち上がる。風呂場に向かう短時間のために下衣を整えながら、身じろぎもしない死体へ明るく声をかけた。

 「ここまで嫌だーって言われたら、面白くなっちゃうんだよな。またそのうちちょっかいかけてやろうか」

 答えは求めずドアを開け、廊下に出た。夕飯であろう香りが漂っている。扉を閉めた瞬間に、ドア越しにはちきれんばかりの怒号が聞こえた。


 「ッッッざけんなっ!!!!!!!」
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