忍者ブログ

ブループラネット

絵を描いたりゲームしたり

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


寝る前の話(SQ1)

ウチのシルフィ(金バド)とユーリウ(金ケミ)の小話です

拍手


ギルドハウスにある小さな部屋、冷えた夜の空気が窓から流れこんでいた。
大きく開けた窓には、オレンジがかった淡い金髪の青年が腰掛けて、リュートを抱えている。曲にならない不規則な音を奏で、どことなげに空を見つめていた。
そしてもう1人、アルケミストの少年は、部屋の中心あたりに置かれた3人掛けほどのソファの背に座っていた。顔のほぼ半分を覆うクセの強い金髪の隙間から、青い左眼を光らせている。
「あんた、なんでバードになんかなったんだよ」
少年は不機嫌そうなその眼で、青年の横顔をしっかりと捉えながら、やぶからぼうに尋ねた。
青年は、少年の方を向くことはしなかったが、楽器を弾く手を止め、少しの間考え込んだ。
「…なんで?なんでって、唄が好きだから、かなぁ」
窓から流れ込む夜風に、柔らかな長髪をなびかせながら、バードの青年は呟いた。
「あんたらしい、ぼやけた答えだな」
少年は、半ば呆れたようにため息をついた。青年は気を悪くした風でもなく、優しい笑みを浮かべて答えた。
「いいじゃんか、とにかく歌いたかったんだよね。仕事とかお金とかそんなこと考えずに、ほんと、それだけだったんだよね…」
大事に抱えたリュートに視線を落とし、弦の一つをつまんで弾いた。彼の気質そのままのような、柔らかい音色が響く。
「…いっつもヘラヘラして。いいよなぁ、お貴族サマは気楽で」
少年は腕を組み、天井に視線を彷徨わせながら、皮肉ぶった口調で言った。青年はその心中を察せず、不思議そうな表情を浮かべて少年の方へ首を向けた。
「なんだい、急にイライラしちゃって。それに、今はもう貴族なんかじゃないよ」
知ってるだろ?と言わんばかりに苦笑いしながら付け足した。
「…ただの売れない吟遊詩人さ」
その言葉に、少年は眉根を更に寄せた。
「そんなこと言ってんじゃねぇよ、気の持ちようの問題。売れないとか言いながら、それでどうするのかとか考えない訳?」
イライラと、少年はだんだん語気を荒げながら言った。
「うーん、だってどうしようもないからねぇ。でも、君たちのギルドに入って、生きる分のお金には苦労してないしさ、何とかなってるんだしいいじゃない」
青年が、へらっと大口を開けながら答えると、少年は怒りを霧散させたように呆然とした。そして、呆れ返った風に大きく息を吐いた。
「そういやあんた、エトリアに来ることになったのも、成り行きだったっけか?マジ、何も考えてねぇんだな……」
「うん、別にいいじゃない。僕は歌えれさえいればいいんだから。ずっと、夢だったんだよ」
蔑むように吐き捨てる少年に、吟遊詩人の青年は相変わらず優しく言った。
「それに歌う、たって聞く相手もいねぇのによ」
口を尖らせて、目つきの悪い少年はねちねちと言った。
「あのねぇ、聞く人がいるから歌うんじゃないよ。僕が歌うから、聞いてくれる人がいるのさ」
「はあ?」
哲学的な言葉を紡ぎ出す青年に、思わず少年は間の抜けた声を出した。くす、と青年は笑いをこぼしながら続けた。
「僕がこうして、窓から月に向かって歌うじゃないか」
窓の外を見上げながら、リュートを撫でて甘くゆったりとしたメロディーを奏で始める。
「この下の通りを歩く人達には、聞こえるだろう?もしかしたら、その中の誰かは、僕の歌に気づいてくれるかもしれない。もしかしたら、誰かは立ち止まってくれるかもしれない。誰かの心に響くかもしれない。そう思うだけで、嬉しくなっちゃうからね」
ふと音を止め、少年の方へと目を向ける。
「は…そんな確かめようもないことに?"もしかしたら"、気持ち悪ぃと思ってるヤツもいるかもしれねぇのに嬉しい、ねぇ…理解できないな」
やれやれと顔をしかめ、もう何度目か分からないため息を吐きながら、皮肉を交えて言う。そんな少年に向かって青年は初めて、少しだけ眉をひそめた。
「んもぅ、意地悪なこと言うなぁ。君、可愛げというか、子どもげがないよ」
ぷーと頬を膨らませる青年に、少年は心底苦々しい表情を見せた。
「へっ、あってたまるかンなもん。そもそも、誰も歩いてなかったらそれこそ、意味ねぇじゃねえか」
「流石に、夜でもこの通りは人がいるよ。僕だって、それくらいは考えてるさ」
青年はちらと下方に目をやった。そして再び、今度はきちんとした旋律を奏で始めた。
「………それに」
返事のない少年の方へ顔を向け直す。
「たとえ誰もいなくたって、君は聴いてくれてるでしょ」
優しい笑顔を見せた途端、少年は慌てて顔を逸らした。そうして、そそくさとソファの向こうへと回り込んだ。
「…………寝る」
ソファに横たわりながら、青年に背を向けて、小さく言った。
「え、ここで?…まだ弾くけどいいの?」
きょとんとした顔で青年が問いかけると、少年はわざとらしく咳払いをした。
「…あんたの歌、どれもたるくて眠くなるからな。子守唄くらいが十分だ」
吟遊詩人は一つ苦笑いを零してから、静かな寒空に向かって歌を歌った。
PR

COMMENT

Name
Title
Mail
URL
Color
Emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Comment
Pass   コメント編集用パスワード
 管理人のみ閲覧
HN:
しなちくセンカ
性別:
女性
趣味:
落書き・切り絵
自己紹介:
ツイッターID:@Senka105
飛びます
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
Copyright ©  -- ブループラネット --  All Rights Reserved
Designed by CriCri / Photo by Geralt / Powered by [PR]
/ 忍者ブログ