ギルド名:スピカ 船名:ゴールドムーン
アーモロードで、世界樹の迷宮という、ざっくりといって、とんでもないもの、の未知を解明するために(そんなつもりはないかもしれないが)冒険を生業としているいちギルドの根城である、漁船、兼海賊船がここな訳だ。甲板下に並ぶ船室(ギルド員の寝部屋だ)の一つを開けてみる。
ーー祖国を飛び出した少年とその従者ー
そこにはベッドに腰掛ける、まだ年端もいかないような背丈の少年と、その靴を念入りに磨く赤毛の青年が床に跪いていた。「なんだ、貴様。いきなり入ってきおって」腰まで届く真っ直ぐな金髪を揺らして、少年は見かけに合わない、鋭い目でこちらを睨めつける。「…なに、名前?自己紹介?……よく分からんが、まあ、それくらいはいいだろう」そこで、靴を磨いていた青年もようやく手を止め、立ち上がると、座る少年のかたわらに寄り添った。「それよりもだな、人の部屋に入る時はノックくらいするものだ。いくら物を知らない庶民の世界といえども、それくらいの礼儀は持って然るべきだ。…さて、何の話だったか」「自己紹介だとか、言っていましたが」「あぁそうか、我が名はアルフォートだ。齢は確か、次で13になるはずだ。…姓?そんなもの、私にはもう、関係も意味も価値もない。くだらん…本当に、くだらん話だ。王子としてまつりあげられて、しかし、正統な血筋には敵わんというだけのことだった。私には弟が一人いるが、それが父の正妻の子だったと、それだけだ。…それだけだからこそ、今でもしきりに恨んではいるがな」少年は自嘲気味に笑った。ぎこちなく、笑い慣れていないような掠れた声だった。「…ふん、もういいだろう……何?ギルドに入った理由だと?…私は海に身を投げたつもりだったのだがな。阿呆そうな青髪の男が私を釣り上げた、と邪魔をしおったのだ。…全く、全部そいつのせいだ、以上」少年は不機嫌そうにため息をつくと、そっぽを向いてそれ以上は喋ろうとしなかった。今度は、さっきから表情までをも微動だにさせない、細身の青年に目を向けた。「…俺の名前は、ユアだ。年は18。一応回復役をつとめている。以上」無感動に言い放った赤毛の青年を、何故か少年が、明らかに苛立った様子で見上げていた。「…もっと、言うことがあるだろう……私があれほど戯れ言に口を動かしたというのだぞ」地獄に引きずり落とそうとするかのような低い声が、声変わりも終わったか否かというような喉から絞り出た。「…この御方の従者だ。アルが生まれてから、死ぬまで、共にいることを誓っている。ギルドに入ったのも、もう家に帰りたくないと言ったアルに従い、一番都合の良い選択だったまでだ。…以上」淡々と、真意の見えない瞳を瞬きもさせずに語る様子はどこか人を超越しているような気さえする。そこへ、再び少年が口を開いた。「…弟」「……俺にも一人、双子の弟がいる。名前も顔も、思い出すだけで気分が悪い。早く死ぬことを願っている」眉根を寄せ、あからさまに機嫌を損ねたようだった。「…あと先ほど回復役だと言ったが、訂正するべきだった。主な役割は、アルの指示に従い、敵の殲滅と味方の怪我の処置を行うことだ。魔物だろうと人間だろうと、この御方の害を為す者を殺すことを最優先にしている。…もう言うことは」「あるだろう。貴様自身、自覚あることだと言っていたはずだが」小さく、青年の眉が動いた。「……痛覚のことでしょうか」「さあな」つーんと、爆弾を投下するだけして少年は、そしらぬ風に顔を背けた。しかし青年はそれでも風立たぬ波のように、抑揚のない声で続けた。「取り立てて言うほどのこともない。俺には痛覚というものがないだけだ。他人には異質で、気味の悪いものらしいがな」相変わらず機械のように語る彼だったが、その濁った目には、どこか寂しげだとか、悲しみの色をたたえている風に見えた。今は、と小さく前置いて、彼は再び語り出した。「別に、気にしてはいない。この御方を護るためには、むしろ都合もいい。俺の居場所は、アルに手を伸ばせば届くだけのところだ。アルが死にたいと願うまで傍につき、そう願えば共に征く。そのためには、不自由のない身体だとは思っている」恥ずかしげもなく、あっけらかんと言い放つ彼の瞳には、揺らぎがない。おおよそ、その通りに二人は、死ぬまで(いや、死んでからも)添い遂げるのだろう。冷たく妖しげな、まるで異次元にいるような空気を纏う二人を残し、船室をあとにする。
【アルフォート:プリンス♂1/モンク 12歳♂ー自殺未遂経験有り。ヒステリック。】
【ユア:モンク♀2/ゾディアック 18歳♂ー無痛覚者。感情が乏しい。】
甲板へ飛び出ると、抜けるような青空が広がっていた。港に繋がれ、穏やかな波に揺られる船上では、ギルド員のほとんどが、うららかな午後を楽しんでいる。一番近くにいたのは、昇降口を出た正面の壁にもたれ座っている二人だった。買物を終え、中身をよりわけている様子だ。
ーー恋人を亡くした男と性別を無くした男ー
黙々と作業を進める青年と、微笑みながら彼に話しかける女性。青年は無視しているのか、ちらりとも横を見ず、だんまりを決めこんでいる。「…何ですか?」二人の前に立ち塞がると、青年の方は顔を上げて、相貌に似つかわしくない、低い、大人の男性の声で言った。いや、似つかわしくないというのは、違うかもしれない。背丈も、肩幅もがっしりとしたその体格は確かに立派な成人男性のそれだ。しかし陽をうけて輝く、豊かな亜麻色の髪は彼の背の中ほどまで届き、ゆるやかなウェーブがかかっていて、中性的というか、妙な女性らしさを与えていた。「突然ねえ、自己紹介なんて」楽しげに言うのは、隣にいる、真紅の髪を持つ女性だった。だがこちらも、大きな胸を強調する服を身につけているものの体格は男に負けず、更に面妖だったのが、酒焼けで喉を潰したようなしゃがれた声であった。「はぁ……」「いいじゃない、楽しそうよお」双方とも180cmはあろうかという体躯を折り曲げてしばし問答した後、青年の方が先に顔を上げた。眉間には、薄く皺が寄っている。「…じゃあ、俺からでいいですよね。シェイジェです、歳は23。…普通に、男です」見た目と声と一人称と口調が織り成す不協和音にかなりの違和感を覚える。「あぁ、あと此処ではゾディアックとして働かせて貰ってます。それぐらいですね。…ギルドに入った理由?はあ、あまり過去を詮索するのはどうかと思いますけど…」「いいじゃなあい、私も聞きたいワ」彼は懐っこく擦り寄る女に嫌悪の目をやり、素早く後ろに退いた。「…あんまり、近寄らないでください。…むぅ、まあいいですけどね…」そうは言うものの眉間に皺を刻んだままため息をつくと、ぽつりぽつり話し始めた。「…故郷に、彼女がいたんですけどね…ええと、俺は大学に行っていて、論文のために、一緒にこの世界樹の迷宮に入ったんです。……でも、俺のせいで、彼女が後遺症、で…その、だから彼女を治すために、迷宮にあるっていう植物を探そうと、ギルドに入っただけです。…まあ、何故か今もいるんですけどね…」「ふうん、じゃあもしかして、その女のコみたいな髪も、関係あるのかしら?」女は前のめりに、青年に顔を寄せた。青年はとっさに、肩を上げて顔が近づくのを止めた。「別に…彼女が臥せってから、切ってないって、だけです。申し訳ないというか、なんか……」青年はわずかに顔を赤らめ、わざとらしく咳払いを一つした。「…それより、早く、貴方も言えばどうです」つっけんどんに青年が言うと、女はつまらなそうに分かったわよ、と答え、こちらに首をひねった。「はぁい、アタシはシェスナよん。年齢はひ・み・つだけどぉ…性別はねえ、なんとこれでも男なのよ?ふふっ、すんばらしーでしょ!」「この前三十路に入ったとか言ってませんでしたっけ」テンションの高い彼女(ではなく実際は彼だが)をじっとりと睨めつけながら、青年はぼそりと呟いた。「あっちょっとお!あれはアナタだけに教えたのにっ!んもー……まぁ年下だから許してあげるけどね?女性の年齢はシークレットなのよ?!」「貴方の、どこが女ですか。自分で言っていたクセに」「むーう、わっかんない男ねぇ……それで、えーと何だったかしら、あっ自己紹介ね!そうそう、アタシのストライクゾーンは、ハタチ以上の女のコ以外でぇす!来る者拒まず!!だから誰か来て、ね?!!」「甲板をその馬鹿力で叩くのはやめてください!というか他にもっと言うべきことはあるでしょう!」「へ?あーえっとぉ…そうだ!アタシの探索での職業はバリスタ!そうよぉ大事よね、職業!アタシね、体力も力もあるし、その上弓が得意だったの!だからもうこれしかないわぁって、本当これしかないんだものー!あっ弓を始めたってのもね、アタシほんとは御曹司ってやつでね、弓道と馬術だけ習ってたの。パパもママもくそ食らえって思ってたんだけどこのことだけは感謝してるわ!特にほんと、パパだけは大っ嫌いで、中学ではスケバンになってね、ヤンキーをどつきまわしてよくパパを呼び出したものだわ、うふふ!アタシ長男だったから、女の子の格好するのをパパは絶対に許さなかったのよ。だからもうそれはそれはムカついてねー、卒業すると同時にパパの金庫ぶち破って家出したのよ。そのお金であちこち行ったりー、おっぱいおっきくしたりねー?これ、すっごい難しかったのよ?あーそれでお金が無くなっちゃって、行き倒れるのは嫌だからここでお金稼ごうーってね、そんな訳でギルド入ったのよ。そしたらもーうカワイコちゃんいっぱいで……初日に鼻血出したのがいい思い出だわ…」「…貴方のその話は何度聞いても虫唾が走りますね……最低じゃないですか」青年は心底呆れたように吐き捨てた。「あーらどうして?アタシは後悔のない人生を送ろうとしてるだけだわ。我慢ばっかりのアナタより健全だわ」「周りに迷惑しかかけないで何が後悔ですか。軽くて色魔で自分勝手で、俺は迷惑してるのにいつまでもつきまとって一体何がしたいんです……」「何度も言ってるじゃない。本気で好きだからアプローチしてるんだって」「だからその貴方の、本気というものが理解できませんし、そもそも俺は貴方のことを何度も何度も嫌いだと言っているはずですが」いつの間にか、二人とも膝立ちで額を突き合わせるほどに近く、睨み合っている。「甘いわね。恋だとか愛だとかは、そんなモンじゃないってことよ!アナタは今、例のカノジョをひきずってるだけよお。だからそれがおさまった頃に、ね?アタシにもチャンスがあるってことだわ!!」「あーりーえーまーせんっ!俺は生涯スレイしか愛さないと誓ったし、たとえ万が一そんなことになっても貴方だけはありえません!ふざけたことを言うのは」「ねえちょっと本気?!!アナタまだ23よ!それでもう未亡人宣言なんて早過ぎ」「誰が未亡人だっ!俺は男です!!!…もういいっ!」ガツン、と青年は甲板を強く踏み鳴らすと、広げていた荷物を几帳面に袋へしまい、怒気をはらんだまま、船室の奥へと消えていった。「あー!」女は一度絶叫すると頭を抱え、その場に突っ伏してしまった。「あーあ、やっちゃった…やっちゃった……」と繰り返し、ひどく後悔しているようだ。とにかく、この二人はこれからも波乱を繰り広げ続けるのだろう、ということだけ予感して、この場を後にする。
【シェイジェ:ゾディアック♀2/ファーマー 23歳♂ー彼女を亡くしており、たまに鬱状態に陥る。】
【シェスナ:バリスタ♀1/プリンセス 30歳♂ー元御曹司。バイセクシャルで、豊胸手術とホルモン調整剤を行っている。】
見た目がへんてこな男二人ともが船室に消えたあと、船上を見回すと、船首楼上の甲板に、こちらを見つめる少年少女の組が見えた。お次は彼らにしよう。
ーー家出少女と野生少年ー
「さっきの、すごかったねえ」淡い金髪を首元で強くカールさせた髪型に、子供用の青いエプロンドレスがよく似合っている少女が、大きな瞳を見開いてこちらに声をかけてきた。「…いつものことだけど、ねえ?」と付け足して、隣に立つ少年に促す。黒い肌に、ボリュームのあるこげ茶色の髪を持った少年はきょとんとした顔で、首を傾げた。が、すぐに、頭に差した二本の、鳥の羽のようなものをひらひらと揺らしながら、笑顔でこくこくと頷いた。「えー、分かってないでしょ?」「うー!」元気に、何度も頷いている。「もー、嘘はだめだよー、嘘は。……あれっ、それで、何かあるの?」少女は自分よりも頭ひとつほど背の高い少年をたしなめてから、こちらにくるりと振り返る。「自己紹介?ふーん…いいよ、あたしはカシュア。10歳だよっ」あどけない笑顔を振りまきながら、少女は言った。「それで、この子がユウマくん。何才だっけ…んー、わかんないけど、たぶんあたしより年上だよ。言葉があんまり分かってないみたいだけど、動物と仲良しなんだー。すごいんだよ」「ゆーまー、うー、けもの!けもの、すき」「ねー、もぐらさんとか、ライオンさんにあたしも触らせてもらったりしたんだよ!最初はこわかったけど、ユウマくんと一緒だとネコさんみたいにおとなしくてねー、……ギルドに入った理由?えっとねー、私はお兄ちゃんを探してるのよ。あたしのお家は大豆の畑を耕してるの。農家なんだよ。それで、お兄ちゃんがふたりいて、お姉ちゃんもふたりで、あたしは末っ子なの。だけど下のお兄ちゃんが家出しちゃってね、お母さんたちたら、全然探そうとしてくれないの。あたし、本当は下のお兄ちゃんの方が好きだったし、だからあたし、下のお兄ちゃんに会いたくって…黙って出てきちゃったの。お兄ちゃん、冒険に憧れてたからここに来たんだけどまだ会えないんだよねー。でもシェイジェくんに会ってー、それでギルドに入ったんだー。みんな優しいし、楽しいからずっといるの」少女は大きく見ぶり手ぶりを交え、身の上を語ってくれた。「それでユウマくんはねー、シェイジェくん達が航海したむじんとう?にいたんだって。あたしは一緒にいなかったから、シェイジェくんに聞いたんだけどね、野生の動物がたくさーんいるちっちゃな島でね、ユウマくんだけ人間がいたんだって。それでねー、よくわかんないけど、ハンターさん達が、珍しいからってユウマくんを捕まえようとしたんだって。それでたくさん動物たちを殺しちゃって、かわいそうだから、カゲツさん達がほご?したとかって言って、だからギルドにいるんだって言ってたよ。ねー?」「うあー?」「あたしもね、一緒に遊べる、同い年くらいの子が入ってくれて嬉しかったの。アルフォートくんは全然遊んでくれないもん。あっでもね、シェイジェくんは、普段はよく遊んでもらったり、教えてもらったりするの。シェイジェくんは迷宮のとか、そうじゃなくても、植物のこと、すっごい物知りなんだよ!だいがくでー、しょくぶつがくをせんこう?してたんだって、よく言ってるよ。だからあたし色々教えてもらうんだー。あとゾディアックのことも教えてもらうよ。せんせーじゅつ、って、最近あたしもちょっとずつ出来るようになったんだ!」「びりびり、びりびり!」「そう、すっごいよね!あんなのできたらかっこいいよー!だから、シェイジェくんはそんけーしてるの。ユウマくんも探索する時はみんなを守ってるんだよ、盾、すっごい重いんだけど。私も早くね、もっと役に立てるようになりたいんだー、ねっ」「ねー」微笑ましく会話する二人はとても気が合うのだろう。自己紹介をかなり逸脱してもなお話し続ける二人をしばらく見守ってから、この場を後にする。
【カシュア:ファーマー♀2/ゾディアック 10歳♀ー幼女。】
【ユウマ:ビーストキング♀2/ファランクス 1?歳♂ー人語はほとんど分かっていない。】
今度は船尾側の甲板上で、何やら言い合っている男と、人間でないものとおぼしき影が見える。声をかけるのもためらわれるが、更に過激な喧嘩を始められてはたまらない。急いで仲裁に入ることにしよう。
ーー海に憧れる青年とアンドロイドの少女ー
「…お主、いいところに来た!フェルン、今はこの話はやめじゃ。いいな?」長身痩躯で、長く艶のある黒髪を高くでまとめた青年は、ぱっと顔を輝かせて言った。「はい」隣にいる赤縁眼鏡を身につけた少女型のアンドロイドも、ともにこちらへ顔を向ける。「うむ、それでお主は何の用じゃ?……ほー、自分のことを紹介しろと。うむ、モチのロンじゃ!」鋭く力強い眼光と反対に、八重歯を見せて人懐こく笑みを浮かべているのが印象的な青年は、右拳で己の胸を叩いて言った。「ワシの名前はリュウキじゃ。龍に鬼と書く。かっこいいじゃろ?この前やっと成人したばかりじゃ。あ、といってもワシの国ではな。こちらは違うかったろう、確か」「この辺りでは15だとか18だとか、あまり決められていないようですね。リュウキ様の故郷では二十歳です」「そうじゃそうじゃ。ワシらはずっと遠くの、東にずっと行ったところにある国におっての。ワシはまー、家出?逃亡?という奴じゃなっ」「ご自分でお認めになるのですか?わたしは主人であるタツミ様の命でリュウキ様を連れ戻しに来たのですが」「こーんな広い海の上で、そんなちっぽけなこと言うでない。無粋じゃのう。それよりほれ、お主もちゃあんと紹介するのじゃ!」「……わたしはフェルンと名付けられています。飛ぶ龍という文字らしいですが…タツミ様に造られ、名付けていただきました」「うむ、親父殿が、ワシらが産まれるずっと前に造ったという話じゃな」「はい、40年前から、タツミ様にお仕えしています」「…親父殿は機械だけは好きらしいのう。ワシのことは目の敵にしているようじゃが」「誤解では?」「そんなこと、あるものか。一歩も外に出させんのじゃぞ?最後には牢にまでぶち込まれた。逃げ出していなければ一生屋敷から出れんのじゃぞ!後を継がせたいなどと言っておったがそれにしても、じゃな。とにかく親父殿は好かん。むう、全くなぜ血が繋がっているのか……」「タツミ様を悪く言うべきではありません」「うるさいっ、お主はいつもいつも親父殿の肩を持って…うぅ、もういい、親父殿の話は終わりじゃ。それより、コトの話をしよう。ワシの妹でな、四つ離れているのだが、これが、可愛い…!ベリーキュートというやつじゃ!優しくて気遣い出来るし気だても良い。まさに自慢の妹というものじゃ」「コト様ですか、そうですね…。大和撫子という言葉がありますが、コト様を見ているとお似合いの言葉だと思います」「まっことその通りじゃな。母上はコトを産む時に死んでしまったが、コトは母上にそっくりじゃと思うぞ」「しかしたまに、変に思い切りが良いのが心配かと」「むう、確かにな…ワシと親父殿がいがみ合うのが嫌だと眼を潰しおったのは驚いたが…流石に反省したというか……親父殿が嫌いなのは変わらんが、コトには悪いことをしたとは、思うぞ…」「あまり気に病んでも仕方ないとは思います」「ム……そうじゃな、とにかくワシは外に憧れておってな。家を出てからあちこち放浪しておったらここに着いたわけじゃ。面白いぞ、見たこともないものがわんさかあってのお、ずっと居りたいくらいじゃ!」「そうですか…しかし」「帰れというのじゃろう?そうじゃな、話をしておったら気が変わった。親父殿に会うのはまっぴらじゃが、コトには会いとうなった。少しなら、帰ってやってもいい!」「……わかりました、タツミ様に言伝しておきます」「ふふ、これで解決じゃな。…お主のおかげで助かった。後で褒美をとらせよう」「…わたしからも、ありがとうございます」思わぬ方へ話が転んだ気がするが、二人とも満足しているらしい。ころころと表情を変える青年はまた、溺愛する妹の話を始めようとするが、非常に長くなる予感がする。だんだん不機嫌を露わにする青年に丁寧に断りを言ってから、その場を離れることにした。
【リュウキ(龍鬼):ショーグン♂1Y/プリンス 20歳♂ーあまりものを知らない。無意識下だがフェルンが好き。】
【フェルン(飛龍):アンドロ♀2/ファランクス 40年♀ータツミにより製造された。コアの部分には実際に、少女の脳が移植されている。】
さて、再び船内へ降り、ギャレーへ続く扉を開ける。大きな楕円形のテーブルに物はあまり乗っておらず、先ほど二人の長身の男どもが持っていた包み袋が無造作に置かれていた。奥に続く厨房からは、小刻みに包丁を使う音がする。人がいる証拠だ。
ーー二つの魂が同居する少年と男を憎む少女ー
「あれえ?どうしたんですか。ご飯、まだ全然出来てませんよ」赤い髪を逆立て、片目を隠している少年は手を止めた。エプロンで手を拭きながら、丸い目を見開いて不思議そうにこちらを見つめている。「…自己紹介ですか?今更?はぁ…いえ、別にいいですよ」「何してるの」厨房の更に奥から姿を現したのは、色素の薄い金髪を肩上で揃えた少女だった。食材らしきものを抱え、まっすぐに近づいてくる。「自己紹介、してほしいんだって」「はあ?」荷物を台上に置き、少年の横に並ぶ。ふさふさと長く伸びた睫毛を幾度もしばたかせ、怪訝な顔をする。「ふーん、じゃあさっさとやりなよ」冷たく言い放つ彼女を横目に、少年は苦笑しながら口を開いた。「えーと、俺の名前はセイアです。今17歳で…一応ウォリアーやってます。此処では…ていうか、前に居た二つのギルドでも、主な仕事は料理だったんですけど。うーん、こんな感じですかね…?じゃあ次、アンジュちゃんで」「はあ?何で僕もやることになってるのさ」「えっ」少年は嫌そうに奥へ逃げようとする少女の服を掴み、悲しげな瞳でじっと見つめている。少女はなおも離れようとしていたが、しばらくして、ついに渋々戻ってきた。「…アンジュール。同じく17歳。役割?っていうか?やってるのはファランクス……誰か守る気なんて全然無いけど。あと妹がいて、男は大っ嫌い、はい終わり」「あー、はは…そうだよね。俺も最初、相手にされなかったっていうか、嫌われてた?よね…」「うん」「即答!即答なの?!なんで良かったの?!」「気持ち悪いんだけど……ていうかなんでって、君がしつこかったからでしょ…」歯に衣着せぬ物言いに、少年は愕然と口を開けている。明らかに傷ついているようだ。「…まぁ、でもなんていうか、君が男ぽくないってのも、あると思うけど」「それフォローじゃないと思うな!」「だって君、背だって僕と変わらないし喋り方とか…それに虫も殺せないし……魚も肉も死んでないと料理もできないとかさあ…」「えー、だ、だってしょうがない…よ、ね?」「しょうがなくないけど」「う……」「何が嫌なの?君が男らしかったら、一生触ったり話したりなんかしてないよ」「えっ」落ち込んでいた少年は嬉しいような悲しいような、複雑な表情で少女を見上げた。「うーん、ああでも、変わる時あるでしょ、君」「?何のこと?」「探索の時とか、別人になるでしょ。口調も変わって、笑いながら魔物殺したりしてる。僕、ああいう時の君は好きじゃないよ」「えっ何それ…何それ怖い……」「あれでしょ、僕は知ってるよ、二重人格って奴」「えー………あぁ、そうか……うーん、いや何でもないや、ごめんね」「ん、じゃあこれくらいでいいんじゃない。早く終わってよ」依然として多くの謎が残っている気はするが、夕飯を準備する邪魔をしてはいけない。はにかみながら見送る少年と、役目は終わったとばかりにさっさと奥へひっこんでしまった少女が立つギャレーを後にする。
【セイア:ウォリアー♂2/(シノビ) 17歳♂ー脳の一部が、死産した双子の弟の脳と同化しており、多重人格的に時折現れる。】
【アンジュール:ファランクス♀1/ウォリアー 17歳♀ー親戚の叔父などに性的虐待をされていたことが原因で男性恐怖症、人間不信。巨乳。】
再び甲板へ上がると、ちょうど街へ出かけていたらしい青年が、高く結った青髪を揺らしながら船へ駆けてくるのを見つけた。彼が、最後のギルド員となる。甲板に上がってきたところを待ち構えることにしよう。
ーー自称寡黙なリーダーと海賊に憧れる青年ー
「…ということで、最後は我々が〆ることとしようじゃないか、なあ?」「わっ、突然どうしたんすか兄貴?!」「ふふ、さっきまでギルドの皆に聞き回っていたんだよ。そして私とお前が最後というわけだ。ということで、私がカゲツ。ギルド、スピカの名ばかりリーダーをやらせてもらっている」「何のことかさっぱりなんすけど」「ほら、自己紹介というやつだ。お前もするんだよ」「へ?あ、えーと、俺はフウ…歳は18でぇ、兄貴の弟子、みたいな…?」「うーん?弟子とは違うだろうが、確かに難しいな。私にすればお前は息子のような、弟のような存在だが…」「ま、どうでもいっすよそんなの。あ、あと兄貴は歳とか言わないんすか?」「…探索では銃も使うが、主にシノビとして行動しているよ。お前はパイレーツだろう」「………何ではぐらか」「しかしお前が突剣を使うことになるとはな!いつも私に憧れているなどと言っているからてっきり銃を扱うのかと思っていたが」「同じ銃だったら一緒に探索いけなくなるじゃないすか!俺は兄貴の役に立つためにもこう、ハンギングとかチェイススラストとか…」「ふふ、お前もそんなことを考えるようになるとは…成長しているものだね」「へへ、ありがとうございます兄貴ィ!」「さぁ、調子付いたところで、他の皆にはギルドに加入した理由を聞いていたのだが…」「加入?」「我々の場合は、立ち上げた理由になるだろうね。私はフウが行きたい、と言っていたから乗っただけだよ。して、肝心のお前は?」「うーん、俺もそんな深い理由なんてねっすよ?二人の頃は海の見回りなんてのばっかりでつまんなかったし、せっかく兄貴の親父からもらった船がもったいねえなって思って……」「ふうん、そうだったのか。確かに船はね…。でも、流石に二人ぽっちで死ににはいけないと思ってたらね、アルフォートくんとユアくんに出会ったわけだ」「あいつ海藻みたいにひっかかってましたよね」「ふっ…彼は今でも根に持っているようだが……」「知らねーよ!ていうか偶然でも助けてやったのになんで文句言われなきゃいけないんすか?本当に、ったく……」「…………」「あ!それより兄貴、紹介なんだったら、兄貴の親父のことも教えてくださいよ。俺もあんまり知らないし…」「親父の?ああ、うーんそうだねえ、私も血が繋がってるわけじゃないんだけどね、小さい頃に拾われたのさ。その時の頃はもう覚えていないけれどね、それからずっと、親父が船長をやってる船で育ったのさ。彼は漁師だったけど、海賊に襲われることもあるらしくて、銃の使い方も教えてくれた。誰に対してもとても優しくてね、でもしっかりしていて正しい人だったよ。だから今でも親父には憧れていてね。リーダーとして少しでもつとまっていればいいのだけれどね」「だあいじょうぶですって!兄貴はメチャいいリーダーっすよ?俺が保証しますって!」「はは…ありがとう。まぁ、そんなわけでね、本当の親みたいに慕ってたわけさ。でも、そうだね…ほんの小さな子供だったフウをある日連れ帰ってきたんだ。砂浜に一人で、ほおっとけないなんて言って。私の時もそんな感じだったのかもね。でも、その日のうちに、大嵐に遭っちゃってね、船員みんな、船室にいた私とフウ以外はみんな、今では誰も生きてやしない。いや、一寸先は闇とはよく言ったものだよ。参ったけどね、嘆いたところでどうしようもないもんだし、それからずっとフウと一緒に暮らしてきたんだ。船員達の家族がとっても優しくて、やってきてこれたってわけさ。ふふ、懐かしいねえ」「兄貴、やっぱり俺尊敬するッス!かっこいい!!」「おや、褒めてくれるのかい?ははは、不思議なもんだね、親父がいなかったらきっと、私もお前ものたれ死んでたはずなのに。いつの間にか、血の交わりよりも深い関係ってやつさ」「んー?それどういう意味すか?」「ふふ、少し喋りすぎてしまったかな?これくらいにしておこうか。さて、ではフウくん、最後に君から質問はあるかな?」「うーん…そういえばやっぱり俺、兄貴の年齢と、男か女かが知りたいです!教えてくださいよ!」「それではさよならまた今度!」「〜〜!!?!」
【カゲツ:シノビ♀1/パイレーツ 年齢性別不詳ーギルドリーダー。育ての親を尊敬している。】
【フウ:パイレーツ♂2/シノビ 18歳♂ーカゲツに憧れている。ややものを知らない。】
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